【TV】ETV特集「深く掘れ 己の胸中の泉 沖縄学のまなざし」2011/02/22

深く掘れ 己の胸中の泉 沖縄学のまなざし
“沖縄学の父”・伊波普猷(いは ふゆう)の足跡を軸に、沖縄のアイデンティティと現状をさぐるドキュメンタリー「深く掘れ 己の胸中の泉 沖縄学のまなざし」を観る(NHK教育・2月20日放映)。

伊波普猷については“沖縄の民俗学者”程度の認識しかなかったのだが、沖縄研究を中心に言語学、民俗学、文化人類学、歴史学などの学問体験を基に「沖縄学」を生み、琉球最古の歌謡集「おもろさうし」の解読に務めたなど、本作で多くのことを知った。

まず冒頭の、米軍基地を見渡す丘で、琉球王朝でおもろを歌う役職「おもろ主取」の末えいである安仁屋 眞昭(あにや さねあき)氏がおもろを歌うシーンからして、ワタシたちを神話の世界に連れていくのだが…。

そして、かつて琉球の村々で歌われていた神歌「おもろ」を100年も前に解読しようとした伊波の著書『古琉球』が紹介される。そこには自然を愛で、平和を愛する沖縄人の心が謳われていた…。

伊波が築いた「沖縄学」は、やがて愛弟子の沖縄方言研究者・仲宗根政善らに引き継がれていくのだが、この仲宗根のことも寡聞にしてワタシは知らずにいた。

それにしても「方言を使ったらスパイとみなす」など沖縄方言の徹底した排斥には、改めてその愚策に驚く。かつて沖縄では、学校で沖縄方言を使った生徒は「方言札」を首からぶら下げられたという。

ところが今やその学校で方言教室が開かれ、子どもたちによる方言を使った発表会が行われている。また、在野の愛好者たちが集った「おもろ研究会」では、「おもろ」の解釈を巡って熱弁を振る若者たちの姿も写し出される…。
そうした、綿々と続く「沖縄学」の“今”が語られていく。

しかしながら本作をもっとも特徴づけるのは、そうした「沖縄学」が向き合わざるをえなかった沖縄の時代と歴史で、琉球処分や沖縄戦、占領、本土復帰さらには米軍基地問題等と深く関わっているのだとする。

したがって冒頭の米軍基地はもとより、全編にわたって随所に基地や米軍機などが挿入され、さまざま人物によって悲惨な戦争の記憶が語られる。

だが、ワタシにはどうもそうしたテーマに引きずられ過ぎた感を持った。
例えば、多くの沖縄人に衝撃を与えたとされる「人類館事件」にしても、それを伊波がどう捉えたかはほとんど語られずに、代りに突如として沖縄を代表するシンガーソングライター佐渡山豊が「人類館事件の歌」を中学生(?)たちの前に歌うシーンに切り替わり、インタビューがなされる。

なにしろ、「絶対的な天皇制の中に一元化していった皇民化政策の行き着いた先」だの、「沖縄では日本軍による虐待がくり返されていました」といった“過激な”ナレーションが淡々と綴られのだから、この番組制作者は確信犯に違いない。

以前にも本ブログで書いたが、NHKが例の番組改変問題以降、ふっきれたように腹の座った番組づくりをしていることは喜ばしいし、今まで沖縄文化にスポット当てた際にスッポリと現在の基地の問題が抜け落ちがちだったことも認めるが、それにしても「沖縄学」をそうした面ばかりで語ることで、やはりスッポリ抜け落ちてしまった部分もあるのではないか。

例えば、沖縄人は平和を愛し外国との交易を大切にした、とするならば東南アジア文化交流史における「おもろ」の意味や位置づけ、またアイヌのユーカラとの比較などがあってもよかったのではないか。

石垣島の「結願祭」のシーンでは、220年前にベトナムから伝わったとされる「弥勒(みるく)」の面が紹介されていたが、沖縄文化はこのように東南アジア文化から強い影響を受け、また交流もあったはず。

そうしたマクロな“まなざし”による「おもろ」の歴史や文化、そしてそれがいかに沖縄人の“胸中の泉”をつくりなしたかを、もっと広く“深く掘れ”なかったものだろうか…。

「深く掘れ 己の胸中の泉 沖縄学のまなざし」の参考レビュー一覧
(*タイトル文責は森口)
「文化とは他者を知るということでもある」--ささやかな思考の足跡
「沖縄文化はおもろと方言だけでは捉えきれない」--ある旅人の〇×な日々

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