【本】仕事漂流 就職氷河期世代の「働き方」2010/09/26

仕事漂流 ― 就職氷河期世代の「働き方」仕事漂流 ― 就職氷河期世代の「働き方」
稲泉 連

プレジデント社 2010-04-15
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著者自身と同世代である29~33歳の男女8人に、彼(彼女)らが経験した「転職」と「仕事」について丹念にインタビュー。「氷河期入社組」の群像を映し出そうという試み。
さすがにそこは史上最年少で大宅賞作家となった稲泉氏。一人ひとりに(おそらく)2~3年の取材を重ね、しかも本人だけでなく周囲の人びとにも接触し、エピソードを重ねながら一本一本を読みごたえのある「物語」として完成させている。そこで語られるのは、「氷河期」で希望をそがれ、過酷な「現実」に翻弄されながら、揺れ動きながらも懸命に「働く」若者たちの裸身だ。そこに至る、若者たちの心情を吐露させる巧みな取材力と構成力には、相変わらず舌を巻く。

が、正直言ってワタシは、最後までこれらの「物語」につき合うのが少々辛かった。途中から惰性で頁をめくった。なぜなら、ここに登場する「エリート」たちの話に、どうしても同質な手触りを感じてしまうからだ。いくらおいしい料理でも、同じような料理な並べられたら、こちらも飽きがくる。
著者には同じ「働く」ことをテーマにした『僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由』 があるが、こちらでは「僕」が全面に出ていた。そこが魅力だった。ところが本書では「僕」がほとんど登場しない。これら「エリート」たちの「働く」ことに、高校中退や大検を経験し、「普通の働き方」をしてこなっかった「僕」がどう感じたのか? 共感あるいは反発はなっかたのが、ワタシはもっと「僕」の声が聞きたかった。それが不満の第一点。
そして二点目は、本書にする「エリート」たちだけでなく、多くの若者たちが直面している「理不尽な労働」について、その構造的な問題にほとんど触れていないからだ。例えば2章で、廃棄商品のケーキを社員やアルバイトが「買わされる」場面が出てくる。それが売り場の「売上」に計上されるからだ。「ケーキを自ら購入しながら『すみません、これだけしか買えなくて』などと謝っている」…という現実に対して「怒り」はないのだろうか? これは不当労働行為ではあるまいか? 周りにいる若者たちが、本書に登場するような「勝ち組」といはいえないような「労働者」ばかりだから、ワタシだけがそう感じるのだろうか…。

もちろん本書の「役割」はそうしたことではなく、「彼らの見た会社の風景や気持ちを少しでも書き残しておく」(あとがきより)かもしれないが、インタビュー部分を削ってもこうした「肉付け」があったほうが、本書の「意味」は高まったのではないかと思う。

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