【本】19歳 一家四人惨殺犯の告白2010/09/15

19歳―一家四人惨殺犯の告白 (角川文庫)19歳―一家四人惨殺犯の告白 (角川文庫)
永瀬 隼介

角川書店 2004-08
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本書は2000年に祝康成の名で書かれたノンフィクション作品を、加筆のうえ文庫として2004年に刊行したものだが、元になった単行本ではなく、ぜひこの文庫版をお読みになることをおススメする。なぜなら、加筆部分と重松清氏の解説がなければ、本書の印象はだいぶ違ったものになるだろうからだ。
一家四人を惨殺した19歳の少年の「心の闇」に迫った作品だが、とにかく前半の少年が殺人に至るまでの描写は陰惨だ。読んでいて気分が悪くなってくる。気が滅入る。
そして後半--筆者と少年による書簡と面会のやりとりがつぶさに語られる。
その少年の書簡に驚かされる。例えば、少年が心酔したジミ・ヘンドリックスについての記述はこうだ。
「ジミ・ヘンドリックスのよく哭き、よく吼え、ひたすら唸りまくるギター・サウンドは、理解できない人にとっては、ただのノイズ(雑音)、騒音でしかないでしょうが、混沌と渦巻くをアヴァンギャルドな爆発力は、眩しいほどに輝いて素晴らしく、鬱々とした気分を突き刺してくれる。(中略)なぜ他の人達のように自分は、学校や地域社会、家庭、世界のすべてに対してつながりを感じられないか。そういったことへの返答を示してくれました。(中略)とくべつルックスに恵まれているわけでもなく、背も高くなければ声もいまいちなのに叡知を自在にあやつる優美さを有していて、且つ、血の通ったなまぐささ、埃っぽいあたたかさもある。(中略)あのアンプをめいっばいフィードバックさせたサウンド、剥き出しになった神経を鉋(かんな)で削ぎ落とすかのように独特のシンコペーションで疾走する爆音がたまりません。皮膚の毛穴のひとひひとつから肌に染み込んでくる刺激が、ズタズタにされていた自尊心にちょうど良く、癒される感じがしました」
というように、ヘタな音楽ライターよりも豊かな表現力で、この「軌道を逸した、ワイルドで破壊を求め続けた」ギターヒーローを描写している。ほかにも「凶暴な殺人犯」とは思えぬ、繊細な表現で記した手紙がいくつも紹介される。
また、被害者が眠る菩提寺の住職と少年との交流も感動的だ。住職は語る。「残酷な許しがたい事件です。しかし、わたしは彼の心の変わりようも見ています。拘置所で、彼に“あとから食料を差し入れるから、何か欲しいものはありますか”と告げると“できれば缶詰は避けてください。缶詰は担当の警務官の方に開けてもらわなければなりません。余計な手間をかけたくないのです”と言うほど、周囲への配慮を示すようにもなっています。わたしは、でき得るならば、死刑にしてほしくない、というのが本音です」
この住職のことを問われて少年は答える。「ああいう人が親戚にいたら、よかったなあ、と。外で出会えていたら、僕の人生も替わっていたかもしれませんね」…。
しかし、本書の最後になって、この少年と2年にわたって向き合った筆者がそうであったように、読者も「闇」に放り出される。
自分の人生を振り返って「なかったことにしてほしい」と口にする少年の「真意は、もはや理解不能だった」(少年が)「抱える心の闇は、わたしの想像を遥かに越えて、冥(くら)く、深く、広がっていた」と筆者は無力感を吐露するのだ。単行本はここで終わっていた。
が、この文庫版ではその後の顛末が書かれ、まさに命を削ってこの取材にかけていた筆者の心情が赤裸々に書かれ、その思いを救いとるかのように重松氏が本書の「意味」を解説している。
理解不能な「業」を抱えたそれもまた「人間」という存在なのだということを、衝撃を持ってワタシたちに突きつけているのが本書なのだ。

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